ストロベリーライン・フォーエヴァー
 美咲はこれも吉川に貸してもらったトレーナーの上下に着替えて庭に下りた。フミじいさんとか言う老人の乗ってきた自転車は、かなり時代がかった型であちこち錆が浮いている。こりゃ相当ペダルが重いぞ、と思っていると吉川が別の少し現代風のもう一台の自転車を家の裏から引いて現れた。
「美咲さん、あなたがこっちを使って。フミさんのは年代物だから」
 そして吉川がギーギーと派手な音を立てる自転車で先を、その後ろから美咲が吉川の自転車で走った。走った。走った。走った。そして20分後。普段バイクか電車ばかりの生活をしてきた美咲はさすがに息が上がっていたが、必死にそれを表に出すまいと苦労していた。
 息ひとつ切らせた様子もない吉川が、自転車から降りて振り向きざま言った。
「あ、ごめんなさい。病み上がりに無理させちゃったかしら?」
「い、いや……」
 美咲は声が裏返りそうになるのを必死で押さえながら言った。
「大丈夫、慣れない自転車だったからちょっと足が、あ、あはは」
 自転車を店の前に建てかけながら美咲は思った。なるほど、この土地の住人の基準では自転車で20分が「すぐ近く」なのか。そりゃ自転車が2台要るわけだ。
 店の中に人影はなかった。吉川は一通り美咲の衣類をかごに入れ、レジのあるカウンターまで運ぶと、値札をはずして自分で合計金額を計算し、その分のお金を机の上に置くように美咲に言った。半分あっけに取られながら吉川の言う通りにした美咲は思わず言った。
「野菜の直売所ならともかく、いいのかよ、こんな事して?」
 吉川は気にする風もなく答えた。
「ああ、大丈夫よ。私だってしょっちゅうこうやって払ってるから。ま、田舎のいいところよね、ウフフ」
 店を出ると少し離れた所に駅があるのに美咲は気づいた。こういう田舎町にいかにもありそうなちっぽけな駅舎だった。そう何日もこの吉川という女性の家に厄介になるわけにもいかない。そう思った美咲は吉川に訊いた。
「なあ、あれは何線の駅?」
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