ストロベリーライン・フォーエヴァー
「あれは常磐線よ。北へ行けば仙台方面。南なら東京方面。でもしばらく電車は動きそうにないのよね」
「え?どうして?」
「それが、線路も道路もこの町の北と南の堺で埋まってしまっていて」
「はあ?あ、そう言えば大型台風がこの辺を通ったの、4,5日前だったな。それで崖崩れかなんか?」
 吉川はなぜか言いにくそうな様子で答えた。
「うん、まあ、そんなところ。ちょうどお盆休みで、外に行った人や万一に備えて避難した人が多くてね。あの辺りじゃ、私のうちにいた人たちだけが取り残されたような風になっちゃって」
「ああ、それでこんなに人気がないのか」
「そうなの。だから、あなたも数日はこの町を出られないと思うのよね」
 それから自転車でもと来た道を走り、海の音がはっきり聞こえる辺りに来た時、不意に「キンコンカンコーン」というチャイムの音が辺り一帯に響いた。不意打ちをくらって少し驚いた美咲がその方向に目をやると、学校らしき建物が目に入った。
「先生。あれは学校なのか?」
 吉川も自転車を停めて答えた。
「ええ。小学校よ。あのチャイム、時報がわりになってこの辺じゃ重宝してるのよ」
 美咲は夕暮れの中に立つその小ぶりな校舎を見つめた。真ん中に玄関のある部分があり、その両側に二階建ての四角い教室棟が対照に並んでいる造りだった。校門のすぐ中に二人の子供が手を天に伸ばして立ち、その二人の手の上に鳩らしき鳥が翼を広げている銅像があった。
 真ん中の構造物はてっぺんから上に三角形の形に伸びたコンクリートの柱があって、それが接する頂点の部分に丸い大きな時計が乗っていた。その時計はちょうど5時を指していた。
「へえ、ド田舎の小学校にしちゃ、しゃれた建物じゃん」
「え!本当?そう思う」
 美咲の「ド田舎」という言葉に怒った素振りも見せず、吉川は嬉々とした声を上げた。
「あの校舎、この町の自慢なのよ。なんか西洋のおとぎ話に出てきそうな造りでしょ?」
< 8 / 34 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop