ストロベリーライン・フォーエヴァー
「あ、ああ……そうだね。あ、いけね!」
「どうかした?」
「しまった。歯ブラシ買い忘れた」
「ああ、だったら、すぐそこにコンビニがあるわよ」
 その「すぐそこ」は自転車で一体何十分だ?と思っていたら、ほんとに数分の距離にそのコンビニはあった。美咲が棚でお気に入りの歯ブラシを探している間、吉川と高校を出たばかりぐらいの年の若い店員の話し声が聞こえてきた。
「吉川先生。あれが浜に倒れてた女の人か?もう大丈夫なのか?」
「ええ、何かで海に落ちたらしいわ。でも明君、あれこれ詮索しちゃだめよ」
 美咲が歯ブラシとウェットティッシュ他何点かをレジに持ってくると、その青年は商品のバーコードを読み取り機にかけながら美咲に話しかけてきた。
「お客さん、都会から来たって?どこからですか?」
「東京」
 そう無愛想に答えた美咲をまじまじと見つめながら明と呼ばれた青年は心底感心した口調で言った。
「はあ、東京!ええなあ!俺も早く都会に就職してえ。都会にはこんな綺麗な女の人がいっぱいいるんだからな」
「おっほん!」
 そう言って吉川が明に見せつけるように体をくねらせて見せた。
「先生、何やってんだ?」
 明が今度は心底不思議そうに訊く。吉川は自分の顔を指差しながら宣言するような口調で言った。
「ほら、ここにも。都会の綺麗なオンナ!」
 明は思わずレジの機械を操る手を止めてあきれた口調で返した。
「いや、先生、百歩譲って綺麗な女は認めてもいいけどさ」
「そんな所で百歩譲らなくてもいいわよ!あたしだって角田(かくだ)の生まれなんだから都会の女でしょ?」
「はあ、角田が都会?」
「何よ!この辺に比べたら百倍都会でしょ?」
「ああ、じゃあそれも一歩譲って認めるとしてもだな……先生が角田に住んでたのは幼稚園の頃までだろ!生まれはともかく、都会で育った女って言い張るのはいくら何でもずうずうしくねえか?」
「何よ!文句あるわけ?」
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