女の隙間、男の作為
「カノちゃん」
「へ?なに?」
年甲斐もなく今朝のワンシーンを脳内で再現しているところで、御子柴の声が聞こえた。
視線をあげれば見慣れた顔が見慣れたものを手にあたしのすぐ隣に立っている。
「早速だけど、この注文書作って先行FAXしておいてー」
「あぁ、了解。えーと石井さんは…終日現場立会いか。
じゃあ勝手に判子ついて送っておいていいよね」
「いいよー。カノさまにお任せいたします」
「よかろう。今日もしっかり営業活動して仕事をとってきたまえ」
「…了解です、岡野部長!」
365日24時間、調子だけはいい御子柴は威勢のいい声をあげて慌しく外出していく。
どうやらあたしにこの指示をするためだけに出掛けるのを待っていたらしい。
いつもみたく汚い字で書いたポストイットを書いて置いておけばいいのに。
「注文書、注文書…なんだいつものバイオ絡みかー。
納期が明後日って大丈夫か、このオーダー…」
ブツブツと独り言を漏らしながら受注システムを起動させて、キーを叩きながら情報をインプットしていく。
「瑞帆ちゃーん」
「なに?」
「なんか今日のシステム、重たくない?
あたしのスピードについてこないんですけど」
どういうことですか。
インプット作業はリズムが命なのに!
「あーなんか今日、サーバーが不調みたいで悉く重いよ。
ってそもそもあんたのスピードにがんばって喰いついてたからダウンしたんじゃないの?」
“あーぁいい迷惑”
瑞帆ちゃん、妊婦さんがそんなに人に厳しくていいの?
もっと優しくなろうよ。胎教によくないよ?
(もちろんそれは口に出さない、内側の本音である)