女の隙間、男の作為
「今日の朝礼は面白いことあった?」
「別にー。予算必達と安全運転とノー残業の通常三点盛」
「うちの会社には他の話題はないのか」
「あーまた社長の気まぐれで夏にはビアガーデンやるって張り切ってるみたいだけど」
「ビアガーデンか。ってことはまた延々朝までコースか…?」
去年の同じイベントを思い出しただけで気分が悪くなりそうだ。
クソ暑いなかで飲むビールは最高だったけれど、その後延々と続くカラオケと飲みの連続がまさに地獄だった。
酔っ払った社長の相手は今年こそ御免被りたい。
御子柴にでもおしつけよう。
「そんなにイヤなら行かなきゃいいのに…」
「社長の財布で飲める絶好のチャンスなんだからここぞと飲むに決まってるでしょうが!」
「社長もそんな邪なヤツにめんどくさいとか言われたくないと思うよ」
御意見御尤も。
これ以上の反撃は諦めて、いつもより遅いシステムの反応にイライラしながらも御子柴の注文書をアウトプットした。
デスクの左端の小さなボックスには担当している営業マンと部長、重役までの判子が勢揃いしている。
アシスタントのなかではあたしだけに託された決裁者の信頼の証。
“カノさーん!資金グループからお電話でーす!”
後輩のハイトーンな声に左手をあげて答える。
男の部屋から出勤しようがあたしの日常は何ら変わらないことに少しだけ安堵を覚えながら、受話器に手を伸ばした。