女の隙間、男の作為

ちなみにそんな髭面の弟のフロリダでの呼び名は“JAN(ジャン)”らしい。
なんてことはない。睦月は1月の和名。1月は英語でJanuary。略表記はJAN。
ゆえにジャン。
この顔でジャンかよとfacebookを見るたびに思うのだけれどまぁ仕方ない。

何と呼ばれようともあたしの弟であることには変わりはない。

数週間の滞在中、実家にいたのは数日のことで当然のようにあたしのアパートに転がりこんではダラダラとしていた。

おかげでまた男物のシャツ(センスは微妙なところである)が増えたし、残業帰りで疲れているというのにアメリカの海外ドラマの話やシンディだかキャンディだかの女の子の話を延々と聞かされるという疲れる日々は続いたけれども、部屋にあるスペックの古いノートパソコンがサクサク動くようになったのはメリットだ。

やっぱりインフラ関係は理工系の男子に見てもらうのがいちばん。


睦月がアパートに居座る間、扱いに困ったのは睦月本人より結城の方だった。
一度関係を持ってしまえば、それを始めるより断ち切るほうが困難だということをはじめて知った。

口に出してルール化したわけでもないのに、週末のどちらかは結城のアパートに居るのが当然のようになりつつあった。
彼の部屋でシャワーを浴びて彼の冷蔵庫からビールを取り出してぐびぐびと飲むのが自然の流れになるなんて誰が予想できただろう。

素顔を晒して素肌を晒して。
スーツや化粧などという武装を解いて向き合うことの煩わしさより心地よさのほうが少しだけ多いから、思わずその腕を取ってしまう。

“笑い事で済ませてみせるわよ”

数ヶ月前に瑞帆にそう宣言したのはあたしなのに、この状況は何なのかとむしろ笑えてくる。
笑えてしまうのなら笑い事で済んでいるのだろうか、なんて屁理屈を1人で捏ねたりして相当の重症だ。
しかも根治の見込みもゼロ。

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