女の隙間、男の作為
むかしからあだ名は“カノ”だった。
オカノの“カノ”。
下の名前を最初から好きになれなかったあたしが“マイコなんて呼ばないで!”とヒステリックに叫んだところを当時の友人が憐れんで“じゃぁカノちゃんって呼ぶね”と言ってくれたのが始まりだったと思う。
今となってはその子の名前も思い出せないけれども、その後20年以上に渡ってこの呼び名が定着していると知ったら驚くかもしれない。
どちらにせよアラサーになった今でもマイコという名前を好きになれないあたしにとっては好都合の呼び名だし、実家の両親と異国にいる弟くらいしか“マイコ”とは呼ばず代々の彼氏達ですら“カノ”と呼んでいた。
(ちなみに弟は髭面のくせに“マイちゃん”と呼ぶ。真剣にやめて欲しい)
たまに調子にのって“マイコ”などと呼ぼうものなら8割の確率で喧嘩になるという残念としかいいようのない名前だ。
ゆえに今後も誰かに下の名前を呼ばせる予定もなければ意志もない。
・・・・はずだった。
その男が現れるまでは。