女の隙間、男の作為
「すみません!遅れましたー!」
タクシーの領収書も貰い忘れるほど急いで店に駆けつけたけれど、案の定遅刻だった。
「こら、カノー!主役のくせに遅刻とはどういうことだ!」
「ごめーんね。えーと、御子柴!」
ハイハイと御子柴の声が聞こえたかと思えばその手にはあたしが言うよりも先に中ジョッキがあって、それをあたしに差し出している。
「うちの旦那様が最後の最後まで人遣いが荒いから遅れちゃいました。
とりあえず駆けつけでいくので、許してね(はぁと)」
飲め飲め!と囃し立てられて、そのまま18秒でジョッキを空にしてやった。
うーん。仕事の後の一杯はキキますね!
「なんで俺より先に飲んじゃうわけ?」
さらに数秒遅れてきた男があたしから空のジョッキを取り上げて不機嫌そうに眉をそろえている。
「おー結城カノは揃いも揃って遅刻か。結城、嫁が飲んだんだからお前も飲め」
はじまってもいないのにゴキゲンな部長はさらに二本のジョッキを結城に差し出している。
その後の展開は見なくてもわかっている。
両手で交互にいって、飲み干すまでに30秒弱ってところだろう。
(今となっては冗談になってないけど、夫婦ネタが定着したのでわざわざ否定するのも億劫で乗っかることで笑いに変えることにしている)
「みんな仮決算で忙しいのにあたしのためにありがとう!
今日は朝まで飲んで吐いて飲みまくるぞーぃ!」
あたしの発言に御子柴が齢40とは思えないほどのデカイ声で盛り立てて、貸切にしてある店内の方々から“カノさんおつかれさまでーす”という声が聞こえてきた。
思わず右隣に視線をやれば当然のように隣の男と視線が合う。
その眼差しは秋だっていうのに暑苦しくて思わずまた笑った。
今夜は、岡野麻依子の送別会である。