女の隙間、男の作為

『あんたに天使が生まれたら拓海くんより先に抱っこしたかったのに、残念だよ』

『拓海が拗ねるからやめてよね』

“でもあんたに抱いてもらえないは寂しいかも”

『1年なんてあっという間だって。戻ってきたら瑞帆から取り上げるくらい可愛がるからさ』

“それは勘弁してよね”

瑞帆はやっぱり瑞帆だ。
そして相変わらず少しだけお節介。

『あたしより不機嫌な男がいるみたいだけど、あっちはどうするつもり?
ものすごい負のオーラ出ててみんな迷惑してるからさっさと片づけなさいよ』

瑞帆が指差す先にはもちろんバーバリーを着た男がそのご自慢の容姿を恐ろしいほどに強張らせていた。

『ですよね。まぁなんとかしますわ』

『カノ』

『ん?』

敵の下へと向かおうとしたあたしを瑞帆が再度引き止める。

『あんたはアレを見てもまだあの男が自分に惚れてないって言い張るわけ?』

アレとはつまりアレだ。
取り巻きの女の子達ですら近づけないほどの負のオーラを放つ我が部の優秀な営業マンのこと。

『…そうだね。潔く認めようかな』

瑞帆の笑顔を既に母親のソレになっていて、あたしのほうが泣きそうになってしまった。

その顔が言いたいことはわかってる。

“女としても幸せになりなさい”

そんな瑞帆のお腹は9月の現時点で幸せな膨らみを得て、立つのも座るのもそろそろ億劫そうだ。
天使の性別は女の子らしく名前はまだ秘密とのこと。
(顔を見てから決めたいという牧村夫婦の意向らしい)

“悪いけどマイコって名前はやめてね”と言ったら、当然のごとく瑞帆からは白い目で見られてしまった。

無事に生まれたら出産祝いをフロリダからDHLで贈ろうと決めている。
(現地オフィスのアカウントを使って事務所に届けてしまえば輸送費も会社経費だし!同僚のお祝いだもの。必要経費でしょ?)

< 116 / 146 >

この作品をシェア

pagetop