女の隙間、男の作為
『バカなの…?あたしは10月からフロリダだよ?』
『うん。だから浮気防止に結婚してから旅立って』
『浮気防止って…なんじゃそりゃ。
そもそも“付き合う”必要ないっていったのはあんたでしょうが』
散々そう言ってあたしを甘やかしてぬるま湯に浸からせてきたんでしょう?
それがなぜ。
なぜこうなる。
『それは俺の目が届く範囲にカノがいる場合のみ限定の話。
俺の監視下から離れるんだから結婚くらいしてもらわないと』
『なんだその俺万歳★みたいな勝手な言い分は!!』
そんなものが通じるほど世の中甘くない!
足でポカポカと蹴ってやればその足首も容易く掴まえられてしまった。
『チャラいアメリカ人によそ見されたら困るし』
『余所見ってあたしはあんたの彼女でも…』
(そもそもアメリカ人だってあんたにチャラいとか言われたくないと思う)
『彼女だよ。カノにとって俺が彼氏じゃなかっただけで、この数ヶ月、カノはずっと俺の彼女。
他の誰とも寝てないしデートもしてないし、ついでにカノとは毎日電話してたし週末は一緒に過ごして相性抜群のセックスもある。
で、俺はカノがだいすき。これを彼女以外になんて呼ぶわけ?』
『(コイツ…!今まで何も言わなかったくせにこのタイミングでさらっと言いやがって!性格悪い!絶対性悪!!)』
開いた口が塞がらないとはまさにこういうことだろう。
『カノは俺のこと嫌い?』
まるで答えがノーだと知っているような口振り。
その自信の根源はなんなのさ。
いったいどこからそんなものが沸いて出てくるのか懇切丁寧に説明願いたい。
『じゃあ聞き方変える。俺と居てどうだった?』
“先輩と居た時より楽しい?それとも退屈?”
なんでココでその存在が登場するのかさっぱりわからない。
今の今まで脳内から消え去っていた男を引き合いに出されてさらに戸惑う。
『…コウくんといると感情の起伏が激しくていつも疲れてたけど、あんたといるとそれがなくて安心する』
楽しいとか疲れるとか。
比べる形容詞が違う気がする。