女の隙間、男の作為
とまぁこんな経緯を経て現在に至るわけです。
(冒頭に戻る)
案の定、あれから毎日のように“結婚しよう”と五月蝿いのでそろそろ騒音として公害認定されると信じてるんだけど、どうなのかしら。
ちなみにその公害まがいのプロポーズは日中のオフィスでも延々と続けられるので、フロアの連中からさえも
『また始まった』
と呆れられている状況であることも追記しておく。
おかげでますます“結城カノ”とワンセットで呼ばれる羽目になるし、部長からは“カノ、結城の姓に変わるならさっさと人事に申請してくれないと色んな書類が滞る”とか真顔で言われるし。
結婚なんてしないし!
「で、結局、結城と結婚するわけ?」
カンパイではじまってから早30分でいったい何度この質問をされたのだろう。
隣の男は“もちろん”とか言って肩とか抱いてくるし(鬱陶しい)。
あたしはその度に“しないわ!”と怒鳴るのにも少々飽きてきたわけです。
ついでに後輩の女の子達からは“やっぱり結城さんの本命はカノさんだったんですね。口惜しいですけどカノさんじゃ敵わないので諦めます”と殊勝なお言葉を続々と頂いてしまった。
(その時の気まずさといったら30年近い人生で味わったことのないものだった)
「カノ、おつかれ」
「あぁ、おつかれさま」
結城とは逆サイドからコツンとグラスを合わせてきたのは忘れてはいけないこの男。
「諦めて結婚すればいいのに」
「松岡。お前からも是非に説得してくれ。結城圭史が結婚に適した男だって」
「めんどくさいから断る」
ハハハハと巻き起こる下品な笑い声。
なにこれコントか何かですか。
「余計なお世話はもう結構って言わなかった?」
「どうせなら一気に最終話まで見たいなと思って」
しれっと言い切るポールスミスの男はどうやら最後まで喰えない男だ。
「で?俺と一晩過ごしたことは結城は知ってるの?」
耳元で囁かれた瞬間に肘鉄を食らわせてやったことは言うまでもない。