女の隙間、男の作為
変わるはずのないあたしの日常にもたらされた変化は決してあたしが望んだものではない。
働いて食べて飲んで寝て起きて働いて飲んで…(エンドレスリピート)の生活には、多少の疲労感はあるものの十二分に楽しんでいたのだ。
確かに曜日の感覚は失いがちにはなるけれど金曜日の清々しさと月曜日の鬱々さは今も健在だし、忙しい割には自由に有休は消化できているおかげで平日のランチもエステもショッピングもそれなりに楽しめる日々だった。
それなのに望んでもいない変化の所為で天敵のストレスが積もっていずれはエベレストにだって届きそうな勢いだ。
「で?いいかげんあたしに説明はないわけ?」
「何の説明よ。ドレッシングを柚味にしたのは健康診断が迫ってるからですけど」
それが何かと言い掛けたところで瑞帆のドギツイ視線とぶつかったのでやめておいた。
どこぞの外資メーカーの新作マスカラで仕上げたに違いない大きな瞳で睨まれたら黙るしかない。
ランチタイム。
社食の鶏肉黒酢あんかけを前にして腹ごしらえのはずがそうもいかないらしい。
何の説明を求められているのかは薄々…いや、濃厚に理解しているからこそ避けたいのだ。
もちろんそれがドレッシングの話題でごまかせるとは思っていないのも確かだけれど。
「察しのいいカノちゃんに懇切丁寧に言わなくちゃいけないの?
な・ぜ・うちの新入り営業がやたらと隣のグループのアシスタントにはりついているのか。というかほぼ口説いているように聞こえるのはどうしてなのか。
それから、な・ぜ・奴は端々にそのアシスタントのファーストネームを呼んで…」
「わーわーわーわーわー!ごめんなさい。
すみません。わたしが悪うございました。
いいから黙って!それ以上言うな!声を張り上げるな!目立つなーーーー!」
あんたのその声のほうがよっぽどうるさいし目立ってるわよ。
瑞帆に指摘されて食堂内の視線をちらほらと集めていることに気づいて肩を竦める。
確かに間違いなく悪目立ちをしている。
「…黙秘権を行使します」
「許可しません。それとも黙っていたいほどイケナイ関係にでもなったのかしら」
「なわけないでしょ!むしろあたしは大迷惑を…!」
「だからうるさいって」
ついついボリュームが上がりそうになるのを窘めてくれる友人のことは大切にしたほうがいい。
たった今からその言葉を胸に刻むことにした。