女の隙間、男の作為
現に結城とはそういう付き合いを長年築き上げてきたのだ。
『カノー。この前のリチウム評価の伝票処理、がんばってくれた御礼にすきなものゴチするー。お疲れ会しようぜー』
『わーい。よく冷えた日本酒と新鮮な牡蠣にしよう!』
『まかせなさい』
二人で散々飲んで食べてあたしがトイレに行っている間に結城がさらっと会計を済ませてくれたっけ。
もちろん毎回“で?この後は俺の部屋?カノの部屋?それとも最短距離のホテル?”とかなんとかお決まりの営業トークが付属していたことも事実だけど、二人ともちゃんとそのジョークを楽しめるある種の信頼関係が確立されていた。
それなのに。
“結城のアホ”
あくまでモノローグのつもりだった最後の一言はどうやら瑞帆には丸聞こえだったらしい。
「そこで結城とくるか。ふーん」
瑞帆はいつの間にかオムライスを完食してしまっていた。
親友がモノローグに悶々としている間にちゃっかり昼食を完了させるとはどういう了見だろう。
しかも問題発言まで。
「松岡のことは本気で迷惑してるし、結城の悪ノリにも辟易してる。どっちがどうとかそういう話じゃないって」
「別にあたしに弁解しなくていいけどさ。
どうするつもり?笑い事で済まなくなったらまずいんじゃないの」
「笑い事で済ませてみせるわよ」
「ほんとカノって逞しいよね」
瑞帆の褒め言葉とはとうてい思えない一言に丁寧に御礼を言ってから残りの鶏肉を一気に詰め込んだ。
こんな食べ方をしていたらドレッシングを柚にしたところで健康診断の結果に期待はできなさそうだ。
そもそも今夜だって結城に頼まれた接待が入っているのに。
週末はちゃんとジムに行ってアルコールを飛ばすようにしようと心に固く誓った。