女の隙間、男の作為
「カノさんは結城くんと組んでいて彼に惚れたりしないのかな?」
「まさか、こんな人遣いの荒い男は御免ですよ。両面コピーのやり方もわからずいちいちわたしに押しつけるんですから」
「えー。あたし、結城さんのためなら100枚でもコピーします!」
「だって。アシスタント変えてもらう?」
“じゃあカノさんは僕のアシスタントをしてもらおうかなぁ”
こんな会話もいつものことだ。
あたしはそうですねと笑い相手のグラスに黄金色の液体を注ぐ。
「あぁでも僕はカノじゃないと仕事が回らないんですよ。今回の真瀬さんに貰った電池評価もカノがいてこそ納期通りに進められるので」
“カノは渡せないなぁ”
結城らしくない切り替えしに思わず二度見してしまった。
おかげで百恵ちゃんのレーザービームのような視線も頂戴する羽目に。
空気読めよ、結城。
「ね?人遣いがあらいでしょう?わたし、来週から怒涛の残業ですよ」
「カノさんは女房みたいだなーアハハハハハ」
アハハハハハハ。
お前も空気読めよおっさん。女房とか言うな。
百恵ちゃんがどんどん般若みたいになっていくよ!
「カノは俺の嫁みたいなものですからねー」
「こんな女に見境ない旦那は御免ですけどねー」
“実直で誠実な素敵な男性がいたら、ぜひ紹介してくださいね”
営業スマイルを全開にしてその場を流すのはこの6年の実績と経験の為せる技。
誰も本気でこんなところで婚活をしようとは思わない。
(御子柴辺りは接待の場ですら花嫁探しに必死らしいけれども)
仕事半分百恵ちゃんの売込(営業)半分でダラダラと時間は過ぎて行く。