女の隙間、男の作為
「お前がそういう奴だってことはよく知ってるよ」

結城の声だった。
しかも不機嫌バージョンの。

「タクシーを横取りしにきたの?」

「違うっての。ほらさっさと乗れ」

グイグイと押し込まれついでに結城までもが乗り込んできた。

「ちょっと!あんたはあたしとは逆方向でしょうが。そもそも百恵ちゃんはどうした」

「いいからいいから。あ、とりあえず●●に向かってください」

タクシーの運転手に告げた方向は間違いなくあたしのアパートのものだ。
家が反対方向のコイツとは帰りのタクシーを相乗りする習慣はない。

「…あの子はどうしたの」

「店の子の前でタクシーに乗せたよ。気分悪そうだったから」

それが演技だとわかっていながら帰したということは、珍しく好みじゃなかったということだろうか。
いや、コイツに限ってそれはない。
ストライクゾーンは東京ドーム並みに広いはずだ。

「待ってろって言ったの聞こえなかった?」

「あぁ、耳が遠いのよね、最近」

「カノ」

冗談が通じない結城なんてバナナの入っていないチョコレートパフェみたいにアンバランスだ。

「なによ」

左側から感じる体温の面積が広くなった。
同時に右手のiPhoneが震え始める。
ディスプレイに表示されている名前は結城にも見えるはずだ。

むしろ結城の舌打ちが先で、そのおかげでディスプレイを見る手間が省けたのかもしれない。
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