女の隙間、男の作為
「カノが松岡のものになるのはどうしても納得できそうもないから」

その言い分はただのワガママだと結城だってわかっているのだろう。

事実彼は“俺の勝手な言い分だってのはわかってるけど”とボソボソと付け足している。

「カノが先輩以外の男に靡くのは嫌なんだよ」

彼が結城をあたしに紹介したのはいつのことだったっけ。

あの時には既にあたしを捨てるつもりだったんだろうな、と自嘲気味な笑いが零れる。

『俺の大学の後輩の結城。来月からうちの部に中途入社が決まったんだよ』

彼はもともと自分の後任者のつもりで結城を引き抜いてきたのだ。
当時のあたしはそれもわからずにただ彼の後輩だという結城に“はじめまして、岡野です”と屈託のない笑顔を返していた。
彼の隣で彼に肩を抱かれながら。
そのことに異常なまでに安心しながら。

なんてバカな女だったのだろう。

『突然だが、●●は今月末で退職することになった』

当時の部長に朝会でその発表を聞いたとき大袈裟じゃなく目の前が真っ白になったのと今でも覚えている。

彼はあたしに一言もなく会社を辞め、そして別れ話すらきちんとせずに“またな、マイ”とだけ言ってあたしの前から消えた。

その瞬間に誓ったのだ。
男なんて懲り懲りだし、二度と社内恋愛なんてするものか、と。

その後、結城がうちのグループに異動してきて何の因果なのかあたしがアシスタントをする羽目になった。

結城は暗黙の了解だとでもいうようにあたしの前では一切彼の名前を出さなかったし、それは数年経った今でも同じはずだった。

それなのに、なぜ、いま。

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