女の隙間、男の作為
「あたしが二度と社内恋愛なんてしないことくらいあんただってわかってるでしょ」
「うん。だから俺だって我慢してるんだし」
「セックスする相手には困ってないんでしょ」
「カノを抱けるものなら抱きたいに決まってるだろ」
「知らないよ、そんなの」
あの人と同じような仕事のやり方をする結城が最初は大嫌いだった。
でもそれが自分のワガママだと認めてからはずっと楽になって今ようやくバランスの取れた仕事をできている、と思っているのに。
「俺のものにならないなら誰のものにもならないで欲しいって思ってるよ」
“先輩の隣で笑ってるカノがいちばん可愛いかったって知ってるから”
最低な男だった。
あの人が結城に“カノには手出しするなよ”と最後に言っていったのをあたしは知っている。
自分だってあたしを捨てるくせにいったいどんな言い分だと泣きながら瑞帆といっしょに居ない相手を責めた。
結城がそれを律儀に守っているなんて思ったことは一度もない。
ただ単純にあたしが結城の広いストライクゾーンに入っていないだけだと思っていた。
少なくとも今日までは。
営業トークが見事に成立する、そんな関係だと。
そんな関係を二人で故意的に築き上げたとすら自惚れていた。
「あんたのためでも彼のためでもなく、あたしは自分のために誰とも付き合わないんだよ」
隙を作らず、それでもどうしようもない隙間を持て余して。
でも二度と同じ間違いは犯さないと言い聞かせて、正しい選択を続けてきた。