女の隙間、男の作為
「ハイハイ、どうしたの?」

「あ、カノー?おはよう」

「おはようさん」

「カノー。俺のパソコンでメール確認して欲しいんだけど」

“あぁ、はいはい”と言いながら受話器を耳と肩の間に挟んだままキャスター付きの椅子の利点を生かして隣の結城の席まで移動。
結城のノートパソコンは既にスクリーンセーバーが掛かっている。
記憶しているパスワードを打ち込めばエラーが跳ね返ってきた。

「あれ?結城、あんたパスワード変えたの?」

“あぁ”とどこか楽しそうな声が電波に乗って聞こえてくる。
こんな朝っぱら(あたしにしてみれば早朝)から何がそんなに愉快なのだろうか。

“誕生日に変えたんだった”という追加情報が聞こえてきたけれど、

「あんたの誕生日なんて知らないよ」

「違う。俺のじゃなくてカノの誕生日」

「はぁ?」

西暦で8桁な、という結城の声にしたがってテンキーでその8桁の数字を叩き込めばスクリーンセーバーが解除されて見覚えのあるシンプルなデスクトップが表示された。

「アリエナイし」

「キュンときた?」

「ううん。本気で気持ち悪いです」

ハハハと愉快な笑い声が聞こえてくるけれど、こちとら大迷惑だ。
なんでコイツは勝手にパスワードを人の誕生日にしてるんだ。
(しかも何で正確に覚えているんだろう。教えた覚えはないんだけど)

「で、誰のメール?」

メールソフトを立ち上げて未読68件のフォルダを漁る。

「ASIのマークからメール来てると思うんだけど」

「あぁ…来てるね。今朝の2時に受信してるヤツでいい?」

「あぁたぶんそれ。テストのスケジュールが延期になったとか言ってると思うんだけど」

「げ。朝っぱらからあたしにこの長文英文メールを読めって?」
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