女の隙間、男の作為
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午後20時過ぎ。
珍しく結城からは1本の連絡もないままこんな時間になっていた。

あいつがあたしに連絡をしてこないときは大抵“ハマった”時だ。
今朝の納期遅れの件で客先ともめているか、別件でトラブったか。
どちらの可能性もあるし、どちらにしろ結城があたしに指示も出せないほどいっぱいいっぱいになっているということだけは確かだ。

受注残データをまとめた資料は既に結城に送ってあるし、結城宛に依頼のあった見積りは代わりに対応したし、我ながら見事な仕事ぶりだと思う。
夕飯は結城に、と思っていたけれどこの状況だし諦めたほうがよさそうだ。

それに今日はさすがに疲れた。
そういえば結局ランチも食べそびれたままだし、早く帰ろう。

隣のデスクには売店で買った栄養ドリンクとこの席の男のお気に入りのハバネロスナックを置いておく。


“けーしくん

お疲れちゃん。
優しいカノちゃんが君のお望みのものを作っておいたよ。
メール確認してね。

明日も9時出社するから続きの指示は明日聞きます。

追伸:パスワードは今すぐ変えてよね

    カノ”


今夜もコンビニ弁当のお世話になることになりそうだ。
この時間に部屋に戻って自炊をする気分にならなければ、誰かと出掛ける気分でもない。

カロリーが高くて味が濃くて美味しくもないお弁当を食べることが正解とも思えないけれど、正解だけをを選べる人生ばかりじゃない。

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