女の隙間、男の作為
「発注しないっていっても客は客であの評価はマストなんですよね?
対応できるメーカーはASIだけ。代理店をうちじゃなくて他社に頼むってこと?」
「…いや、ASIはうちの本体と契約を結んでるから他には流さないはず」
「それにあの面倒な英訳とスケジュール管理と物流を請け負ってくれる代理店なんて早々ないでしょ」
「それでも強気なのがあの会社だからなー」
大事な取引先と言えども、思い切り中指を突き立ててやりたい衝動に駆られる。
“結城さん。お電話でーす!”
フロアの端っこから女の子の声が聞こえてきて、愚痴という名の報告は一旦終了になった。
愛想よく電話に出てはいるものの結城が疲れているのはモロわかりだ。
あたしはあたしでやっぱり失注するのは嫌だし。
「カノさん、見積作ってもらっていいですか?」
「あ、水野くん。いいよー。誰宛?」
水野くんは御子柴と違って聞き分けがいいので、あたしが知りたい情報は全部メモに書いて渡してくれる。
宛先も担当者のメールアドレスも利益率のパーセンテージも。
「端数はどうする?丸める?」
「あー、カノさんに任せます。切り捨てか繰上げかカノさん判断で。
流れ物なので利益少ないし」
「了解!午前中に作って送るね」
「助かります。僕はこれから研修で大阪なので、何かあったら携帯に連絡ください」
「そうなんだ。がんばってねー」
「おみやげ買ってきますね。リクエストあったら携帯にメールください」
「瑞帆と相談してリスト送る」
水野くんは待ってます、と苦笑いを浮かべて量販店で買ったと思われる背広を片手に颯爽とフロアから出て行ってしまった。
「瑞帆ちゃん。大阪みやげってなにかな?」
「カノ、あんた忙しいんじゃなかったの?そんなことしてないで仕事しなさいよ」
同期はこちらを見ようともしないじゃないですか。
ひどいよ、瑞帆ちゃん!
(でもヤツはちゃっかりGoogleを起動させて大阪おみやげ情報を検索している)
「じゃ、おみやげは瑞帆ちゃんに任せるね」
瑞帆はきっと無理難題を水野くんに与えるつもりだろう。