女の隙間、男の作為
「カノがそこまでやる必要あるの?」

「あるかどうかと言われたら無いけど、そのうち誰かがやるんだから一緒じゃない?」

「結城のため?」

なに言ってるのコイツ。バカ?

「たとえ御子柴の案件だろうとやってるよ。うちのグループの抱えている案件である以上、サポートは避けられないでしょ」

“残業時間にこんな当たり前のこと言わせないでくれます?”

カタカタとキーを打ち込みながらエクセルに式を組み込んで格闘しているところで的の外れた会話を続けるほど器用じゃない。

「なんでそこまでがんばるわけ?こんなの結城にやらせればいい話だろ。
俺が同じ立場だとしても瑞帆ちゃんには振らないよ」

そうだろうな、と内心では納得する。
たとえ瑞帆に振ったとしても瑞帆は“できない”と断るだろう。
それに松岡がそれをしないこともわかっている。

「別にあんたに手伝えって言ってるわけじゃないんだからいいでしょ」

“放っておいてくださいよ”

我ながらなんて可愛くない女だろうと思うけれど、致し方ない。
これがあたしだ。

「手伝えって言ってくれたほうがマシだよ。
たまには周りに頼れば?」

自分の導火線が人より短いことは自覚しているし、だからこそ着火しないようにと気をつけていたけれど、ダメなときもあるみたいだ。

「…で?次の台詞は“仕事はチームでやるものだろ?”とか?」

「わかってるなら、」

「わかってるわよ。だからあたしがこうして頑張ってるんでしょうが。わかってないのにわかったような口を利いてるのは松岡くんの方だよ。
チームでやるものだから、うちのチームの仕事はあたしがサポートしてるの」

「だからって振られた仕事全部やることない。カノも誰かに振ればいい話だろ」

「ねぇ、なんで結城や御子柴や部長ですらあたしに仕事を振るのかわかってる?
 あたしだからだよ。あたしを信頼して振った仕事なのに、あたしが勝手に別の人に振れないし、今の状況で瑞帆を除いて渡せる相手はいないよ」

“それに出来ないときは『出来ない』ってちゃんと言ってる。
 騎士道精神はご立派なことだけど、使う相手を間違うと余計なお世話と紙一重だよ”

言い切ったあたしの眼前には“苦い顔”をしたひとりの男。
その顔の意味することならわかっている。

 同情、憐み、軽蔑、呆れ

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