女の隙間、男の作為
「ごめんね。可愛くない女で」
たとえば月曜9時放送のドラマの脚本だったとしたら、あたしはボロボロ泣いて彼の胸に飛び込み、照明の少ないオフィスで熱い口づけなんかを交わすシーンなのかもしれない。BGMには主題歌のバラードバージョンなんかがしっとりと流れたりして、to be continue。
でもここは岡野麻依子の現実世界であり、不運なことにヒロインも岡野麻依子だ。
これ以上の展開はアリエナイ。
「疲れない?」
「そりゃ生きてるんだからそれなりに疲れるでしょ」
松岡はそれ以上は何も言わなかった。
戻ってきたばかりだというのにまた喫煙所に向かってくれたのは彼なりの気遣いなのだろう。
たぶんあたしよりずっと大人なのだ。
ねぇ、あんたはこんなあたしを目の前にしてもまだあたしを好きだなんて戯言を言い続けるわけ?
資料を完成させてもどこかに埋められない隙間が空いていることくらいはわかっている。
それを埋める手段もわかっている。でもあたしは絶対にそれを使わないと決めたのだ。
二度と同じ間違いを犯さないために。