女の隙間、男の作為
「カノ、マジで言ってる?」
「うん。あくまで計算上だけど去年の実績と同じ内容ならトータルで100万は下げられるよ。
まぁ実際に切り替えるかどうかはアメリカ側からの了承も必要だろうけど」
ランチタイム。
瑞帆にはひとりで社食に行ってもらっている。
結城がこの時間にしか社に戻ってこないというから仕方ない。
昨夜作った資料をアウトプットして結城に渡すと案の定驚いている。
「削れるのはもう物流費しかないと思って乙仲を見直してみたの。
本社が契約してるレートの一覧がコレね。物流から入手してみた。
で、フロリダ向けでいちばん低いレートがココ。今、うちが使ってるところより5円安い」
「で、合計でコレだけ下がるって?」
結城の確認にあたしは首を縦に振る。
評価テストを受けるために供試体をフロリダのメーカーに毎回輸送する必要がある。
だからそのコストを抑えられるならそれがベスト。
物流費の処理はあたしが単独で済ませているので結城も見落としていたのだろう。
「でも乙仲を変えるのは結構ハードだよ。現地のハンドリングがちゃんとしているかとか、荷落ちがないかとかフライトスケジュールの見直しもあるし…」
正直、いざコレをやるとなったらそれこそ残業続きになること間違い無しだけれど、やれと言われたらやるしかないとどこかで腹も括っている。
“どうする?本格的に進めるなら物流にアポ取るけど”
「カノ、ちゅーしてもいい?」
「いいわけないでしょ。殴られたいの?」
「殴られてもいいから俺は今、猛烈にカノを抱き締めてちゅーしたい気分なの。何ならこのまま結婚したいくらい」
「あんた忙しさで頭おかしくなったんじゃないの?」
こっちはランチを犠牲にして素晴しい報告をしているというのに。
なんでこんなふざけた会話に巻き込まれなくちゃいけないの。
「カノ、ありがとう」
それは結城がたまに見せる営業用とは違う安心した時の表情だ。
あたしは故意的な笑顔よりこの表情を女の子に見せたほうが好感度が高いと思っているのだけれど、本人にそれを伝えたことはない。