女の隙間、男の作為
「ちゅーは諦めるからハグだけさせて」
「えーヤダよ。昼間のオフィスでそんな悪目立ちしたくないし」
「え?夜に俺の部屋ならいいってこと?ハグだけじゃ終わらないけどいいのか?」
「バカ!死ね!」
吐き捨てて結城から視線を外せば隣から陰気なオーラが漂ってきている。
あーハイハイ。そんな拗ねないでよね。
“わかったからその負のオーラを仕舞って”
椅子に座ったまま異動して結城との距離を普段より20cm縮める。
相手は満面の笑みで両手を広げて座ったままのあたしにその腕をあたしの背中に回した。
変わらないアラミスのトワレの匂いが鼻腔を擽る。
背後から誰かしらの呆れた溜め息が聞こえたような気がしたけれど積極的に無視することにする。
結城は再度“ありがとう”と言い、名残惜しそうにあたしの身体を解放した。
「物流部にメール一本打っておいてもらえると助かる。
その後で俺から電話入れるから。番号わかる?」
「あぁ、コレ。担当者は久野さんだから。話をするのは乙仲担当者だろうけど仲介してもらえると思うよ」
「サンキュ。また連絡するから」
“それから昼飯、ごめんな。まとめて埋め合わせするから”
相変わらず律儀な奴だと思いながら左手を振るだけに留めておく。
頼まれていたメールを打ったら売店でサンドイッチでも買おうと思いながらメールソフトを立ち上げた。
誰かに喜んでもらえる仕事ができると、それだけで気分は上がるものだ。