女の隙間、男の作為
「…ちょっと、飲みすぎただけ」
「カノが酔ってるかどうかくらい見ればわかるっての」
あぁそうでしょうとも。
あんた達のおかげで腹立たしいほどに頭はクリアだ。
「…唇、切れてる」
“噛んだ?それとも噛まれた?”
結城の指がそこに触れる。何かを確かめるように。
震えたのは痛みの所為なのか、はたまた他の何かの所為なのかわからない。
確かなのは結城の指を口紅と血で汚したことだけ。
再び逸らした視線が問いへの答えになるのだろうか。
剥がれることなく、何度も同じ場所を往復するその柔らかなそれでいて確かな感触。
傷を癒すようにも広げるようにも思えるその仕草に顎を引いてみても、離してくれない。
それは不本意だったあの一瞬のキスの痕跡を拭い去るには十分な刺激だ。
「泣きそうな顔してるのは俺の所為?それとも――?」
そういうあんただって何なのよその表情は。
なんでそんな嫉妬した男みたいな顔で見下ろしたりするの。
なんであたしは長年避け続けたきた、めんどくさい状況に陥ってるの。
素直になる?
泣きそうな顔?
「なんでもないから離して。もう帰るし」
「カノー」
宥めるような声。
当然のように纏わりつく長い腕。
鎮静作用にも似たアラミスのトワレの匂い。
あぁ、なんで。
振り払うタイミングを逃してしまった。