女の隙間、男の作為
「瑞帆ちゃん…ヒドイ…」
“マリアちゃん、サングリアおかわり~”
ちょうどあたし達テーブルを通りがかった店員のマリアちゃん(スペイン人ハーフの美女!)を呼び止めて空のグラスを高らかに掲げてアピール。
「でもとりあえず三角関係問題は解決したからいいじゃない」
「あんた…他人事だと思って…!」
何も解決してないし。
むしろ会社の居心地が悪くなるばかりで困ってるっての。
「だってその無理矢理ちゅーで松岡の選択肢は消えたでしょ」
容赦の無さでいったら牧村瑞帆(旧姓島崎)の右に出るものはいないんじゃ…!というくらいこういう時の瑞帆には遠慮が無い。
あたしが目を逸らしてしまうこともズバリと言い切る。
「もともと選択肢にしてるつもりもないけど…」
「でも一晩過ごしたわけでしょ?」
「言葉を選んでよ!記憶もなければ具体的な接触もないってば!」
「その未遂は逆にやらしいっての」
「それは…あたしもそう思うけど…」
あのキスマークがなかなか消えなかったことは思い出したくもないイベントだ。
「久々にマイって呼ばれてときめいた?」
「全然。むしろコウくんを思い出して腹が立った」
「ハハハ!あんたはどこまでもカノだね」
意味不明の瑞帆のコメントにマリアちゃんがもってきてくれた追加のグラスの中身がまた一気に半分ほど減った。
(しかしここのサングリアは本当に美味しいよなぁ)
「冗談は抜きにしてさ。実際のところ結城のことはどうなのよ?」
「どうって…アイツは優秀な営業マンだけど下半身のだらしないサイテー男でしょうが」
「まぁその周知の事実はあんたの実家の押入れくらいに置いておくとして」
「勝手にあたしの実家の押入れに物を入れないでよ」
しかもそんなもの断じて置きたくない!
「グループ会社、取引先、仕入先、スタバの店員までのべつまくなしに口説いては手を出してきたアイツが、あんたにだけは手を出さなかったのは事実でしょ?」
「瑞帆にだって出してないじゃない」
「あたしには愛する夫がおりますので」
“ハイハイ。御馳走様”
ダメだ。サングリアはデカンタで頼もう。
グラス単位じゃマリアちゃんに手間をかけるだけだ。