女の隙間、男の作為
「それは…あたしが、」
「“コウくんの彼女だった”から?
アイツの節操の無さならカノだって知ってるでしょう?中途入社の同期の彼女ですら寝取った男だよ?」
そうだった。
人のものだろうが何だろうが、自分に迫ってくる女なら拒んだりしないし、好みの女ならたとえ人妻だろうと口説く男だった。
「セックスする相手には困らないけど、一緒に仕事をする相手はあたししかいないから」
本人が言っていた台詞だ。
アイツが嘘を吐いていない限りこれ以上の答えはない。
「それ本人に言われたの?」
二度の瞬きが肯定の代わりだ。
スペイン風オムレツは少しだけ冷めてしまっていた。
都合の悪い話題になると次の追加オーダーは何にしようとメニューに逃げるのは学生の頃から変わらないあたしの癖。
「その結城がいよいよ動き出したわけなんだから、本気としか思えないけどね」
“松岡の存在がアイツを動かしたとも言えるけど”
「動かなくていいよ。3ヶ月前の平和な日々に戻って欲しいだけ」
毎晩のように残業して飲んでバカ言い合ってまた飲んで夜道をギャンギャン騒いで帰る。
そんな毎日があたしにはピッタリだったのに。
幸せとは言えないまでも85%の満足度が得られていたのだからそれでよかった。
「甘ったれたこといわないの」
「瑞帆ちゃん…優しさを実家にでも置いてきちゃったの…?」
親友に対して酷くないですか。
もう少し優しくしてくれても損はしないですよ…?
「あたしの優しさは旦那限定だから」
「独身女の敵!敵がココにいます――!」
うるさい、と一瞥されてしゅんとなる。
「でもさーなかなか言えない台詞だよね。
“気持ちよくする自信がある”なんて」
“まぁ結城らしいとも言えるけど”
「もうこの話題やめない?」
「なら来週からミスをゼロにしてよね」
「一年に一度でいいから旦那以外の人間にも優しくしたほうがいいわよ、瑞帆ちゃん」
「とりあえず結城と寝てみればいいんじゃない?」
瑞帆の爆弾発言に今度こそサングリアを思い切り噴出してしまった。
漫画なんかでよく見かける“ブーッ”という擬音がピッタリの吹きっぷりに向かいの席の親友も汚いとばかりに冷ややかな眼差しをこちらに向けている。
(誰の所為でこうなったと思ってるのよ!)