女の隙間、男の作為


「カノー」

「なんじゃい」

あたしの名前は絶賛大安売中か。
(そんなセールス期間を許可した覚えはないのですが)

喫煙スペースから戻ってきたばかりだろう。

不健康そうな匂いを漂わせながらあたしのデスクの傍らにやってきたのはうちのグループの稼ぎ頭だ。

結城圭史。
有能だけれど下半身のだらしない困った男。

昨夜の接待飲み会も彼が主催のもので、それはもうハイセンスな店のセレクトでイタリアン懐石からシメのつけ麵までそれはもう美味しくいただきました。
(でも二軒目のお店でカウンターで飲んでいた美女二人の連絡先を手に入れていたことも知っているけど)

「来期の評価テストの引き合いきた!手順書と条件書の英訳頼んでいい?」

「いつまでー?」

「…今日中?」

「それって定時中?それとも24時?」

「24時。夕食に絶品パエリアとサングリアつける」

「お安い御用だよ、結城くん」

「ついでにホテルのスイートもつけるけどどうする?」

「あぁ、ごめんね。今朝からはじまったの」

“オンナノコ”

もちろんこれは嘘だし結城だってわかっている。
所謂営業トークってやつだ。
それに同僚と寝る趣味はないし。

営業部フロアとはこういうものなのです。
(夢を裏切ってごめんね、乙女のみなさま!)

案の定“あっそー。じゃあスイートは次回に持ち越しだねー”と微塵も残念がっていない様子。


「前期の資料、置いておくからコレ参考にしてよ。ほぼ同条件でやるから」

「りょうかい!店の営業時間内に終わらせるから任せなさいな」

“サンキュ”と欧風かぶれした結城は背広を肩にかけて颯爽とオフィスを出て行く。
奴がオフィスにいるのは朝一と19時以降のみ。
客に呼ばれれば朝の7時から現場に行く営業バカ。
ゆえに数字も好調。
だから業務のサポートはいくらでもしてあげると決めている。
それがあたしのお仕事ですもの。
(自分に被害が及ばなければ女遊びくらいどうぞお好きに!)

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