女の隙間、男の作為
「ななななななんて破廉恥な発言を!」
「うるさい。処女でもあるまいし」
「この数年で処女に戻った可能性を近頃真剣に思案しているところなのよ」
「ありえないから今すぐ考えるのをやめなさい」
ハイハイ。わかっていますとも。
処女膜は再生不可ですよね。
でも真面目にセカンドバージン状態のあたしが次に誰かとそういうことになったとしても上手く機能するかどうかは大いに疑わしいところだ。
「なんであたしが結城と寝なきゃいけないの。
すきでもない男と寝る習慣はないよ」
「否、カノはわりと奴のことすきだと思うよ」
「何言ってるのよ。ありえない」
「ありえなくない。あいつの素行を別にしたらカノが心を許してる男なんてアイツくらいじゃない」
“相手も気持ちはなくていいって言ってくれてるんだし、その言葉に甘えて寝てみれば?案外、ぴったりくるかもよ”
「その他大勢のひとりになれっての?この年で?」
「ノーノー。あたしの読みではカノがYESと言えばアイツは他の女を切ると思うよ」
「何を根拠にそんなことを…」
「ていうかさ。この際だから言うけど、結城がカノに惚れてるんじゃないかってのは、たぶんカノ以外はみんなが思っていたことなのよ」
「嘘だろ!?」
し、しまった。ボリューム調節を忘れていた。
ただでさえ広くない店内なのに、客のほとんどの視線を集めてしまっている。
肩を竦めて一回りサイズダウンして壁側に身を寄せる。
(五月蝿くしてゴメンナサイ)
「本当だよ。御子柴が二人を夫婦扱いするのもその所為。
松岡の登場で“カノ劇場”が始まったけど、これで結城が本気出すんじゃないかって一部では盛り上がってるし」
「ゴシップなんてクソ食らえ!」
「まぁあの男のあのキャラは自分で自分の首を絞めてるだけなんだけどね。
でもカノだって無遠慮に迫ってくる松岡より、あくまでカノの合意がなきゃキスもしない結城のほうがマシだって思ってるわけでしょ」
「比較論でいえば、の話でしょ」
今、たぶんあたしは親友相手にさえ嘘を吐いている。
だって松岡にキスされた瞬間に思い浮かんだ顔は結城なのに。
“無理矢理キスしたりしないから”
結城のことを誠実だと思うなんてどうかしてる。
今この瞬間だってどこぞの女の膝を割っていてもおかしくないような男なのに。
あたしはおひとりさまの老後を迎えることを密かに覚悟を決めているような女のはずなのに。
もう誰かに夢中になったり甘えたり、そんなこととは無縁だと決めていたのに。
なんでよりによって長年隣の席で仕事をしてきた相手にその可能性を見出さなくちゃいけないの。