女の隙間、男の作為

「…あたしはカノに女としても幸せになって欲しいと思ってるよ」

瑞帆だって卑怯だ。
そんなことを言われたらますます無視できなくなる。
あぁ、もうオーダーしてるパエリアはまだ来ないの?
この話題から逃れる対象がテーブルの上に何もないなんて。

「結城の台詞じゃないけどさ。紘太先輩の隣にいたときのカノは確かに可愛かったもん」

「…」

「カノのことだから今さら新しく相手を探すのなんて面倒だって思ってるんでしょ?それなら丁度いいじゃない。結城なら手探りする必要もないくらいあんたのこと知り尽くしてるよ」

“その状態であんたのことすきだって、そう言ってるわけでしょ?”

「初対面で口説いてくる男よりはよっぽどマシだとは思うけど…」

「…これ以上ミスしたくないなら逃げずにちゃんと考えなさいよ」

「ハイ」

親友の言葉にようやく素直に頷いた。


「それで?あんたの話はしなくていいの?瑞帆ちゃん」

「え?」

あたしの言葉が意外だったのか瑞帆にしては珍しくポーカーフェイスが崩れている。

「誘ったのは瑞帆のくせにあんたはずっとブラッドオレンジジュースを飲んでる。フレックスはあたしの専売特許なのに先週珍しく誰かさんがそれを使った」

その答えはひとつしかない。
でもあたしはそれを瑞帆の口から聞きたいのだ。

「さすがは親友」

「でしょ?」

「…結婚して3年。ようやく第一子を授かりました」

“拓海と両親以外ではあんただけしか言ってない”

その言葉が何より嬉しかったりして。

「おめでとう、瑞帆」

「ありがとう」

立ち上がって何の躊躇いもなく瑞帆を思い切り抱き締める。
本当はずっと瑞帆が子どもを欲しがっていることくらいあたしだって気づいていた。
でもコイツが何も言わない女だから、あたしも沈黙を守ってきただけのこと。

「いつから産休予定?年内…はキツイか。11月ってところかな」

「そうだね」

つまり、先輩が産休に入ったばかりだというのに年内にまたひとり大切な戦力が第一線から退くということか。

おめでたいことだけれど、やっぱりどこかキツイと思ってしまうあたしは根っからの仕事人間なのかもしれない。

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