女の隙間、男の作為
カノは何もしなくていい。全部俺に任せてくれればいいから。
その言葉通り、ただあたしはその手を握ればよかった。
結城があたしに強要したのはただひとつだけ。
二人の携帯の電源をオフにすることだけだった。
あたし達は二人同時にiPhoneの電源を落とし、目を合わせて笑いながら光を失った黒い電子機器をソファに投げ捨てた。
初めて見る結城の部屋は、彼らしいと言うべきか、ダークブラウンに統一されたシンプルなもので、当然のことながらアラミスのトワレの香りの濃度が高い。
何か飲むかとの問いにもシャワーを浴びるかとの問いにも首を横に振り、可能な限り感情を切り離して自分をただの穴だらけのスポンジだと思うようにした。
すべてを内側に吸収して一時だけでも満たされるように。
「前にも言っただろ?カノが嫌がることはしない」
見上げた先にぶつかる二つの瞳はその口以上に“怖がらなくていい”と言っている。
この男はいつもこんな風に女を見下ろすのだろうか。
だとしたら、あまりにも罪深い。
最後に男と寝たのはいつだっけ?
即答できないほど昔のその行為を上手くやり遂げられる自信は全くないけれど、相手はそれすらも請け負うと言っているのだ。
脳天、額、こめかみ、目蓋、頬、耳、鼻先。
ゆっくりと触れる弾力がじわりじわりと温かさを運び、内側に沁みこんでいくようだ。
目蓋を下ろしてからさらに10秒。
いつ触れられるのかと唇に全神経を集中させていたおかげで、その瞬間に相手も震えていることがわかった。
いい大人が触れるだけのキスをしたくらいで震えるなんてバカみたい。
でも、その事実があたしの導火線を引き千切って爆薬に直接火を点けてくれた。
舌を入れたのはあたしが先だった。