女の隙間、男の作為
「カノー」
「瑞帆ちゃん。カノちゃんは大忙しなのですよ。トイレはひとりで行ってね」
「誰が連れションするんだよ。
あんた今日の朝礼サボったから情報の横展してあげようと思ったのに」
「どうせ予算必達と安全運転とノー残業の三点盛でしょ?」
「今日はそれにプラスワンの四点盛り。
先月出向になった森川の代わりの人材が来週から補充されるの」
「あぁそういえばあんたのグループ人材不足のままだったっけ」
「本社からの出向だってよ。どうやらやり手らしい」
「サイアク。本社の人間なんてめんどくさいだけじゃん。
あたしら子会社に対してやたら上から目線のアホでしょ。
やり手だろうが関わりたくない」
“まぁお隣のグループのことはあたしには関係ないですけどー”
御子柴の見積りを客先に送りついでにメールのチェック。
既に瑞帆からの情報への興味は失っていて、いかに効率的に業務をこなすことが優先になっていた。
「カノさーん!○★サイエンスから3番に電話入ってまーす!」
フロアの端っこから発せられる後輩の女の子の声に左手を挙げて応える。
瑞帆も自分のデスクに向き直る。
長年背中合わせで一緒に仕事をしてきた暗黙の“間”ってやつだ。
「お電話変わりました。岡野でございます。
…いつも大変お世話になっております…えぇ、先日お送りいただいたお見積りの件ですね…」
こうして今日も“岡野麻依子”の日常は昨日とまったく代わり映えのしないスタートを切るのである。