女の隙間、男の作為
その後のことは靄がかかったように曖昧で、それでいて雲の上の空くらいに眩しくて澄み切っていた。
口惜しいことに結城の言葉に嘘はなかった。
結城はわざとあたしの羞恥を煽るような言葉を聞かせることもなければ、無理矢理あたしに何かを言わせるようなこともしない。
我慢していればそれを見守り、声をあげればそれを聞き届け、して欲しいことをして欲しいタイミングでしてくれた。
絶妙な力加減で胸の頂を爪で引っ掻き、痛みを感じる直前で舌の刺激に変え、甘さの中に牙を交える。
異常に褒め称えることもなければ、甘ったるい言葉もない。
あたしがいちばん嫌う名前呼びをすることなく、いつも通り“カノ”と呼んでくれた。
だからこそあたしは過去の誰かや胡散臭い誰かに惑わされることなく、目の前の男が結城圭史なのだという事実から目を逸らさずにいられる。
そしてありがちな“名前で呼べ”という要求もなく、あたしもいつも通り結城を結城と呼べばよかった。
(そもそもあたしには行為の間に相手の名前を連呼する習慣はないのだ)
条件反射で閉じた膝をやんわりと押し広げて、
“カノがそうしたくなるのはわかるけど、もう少し力抜いて。嫌なことは絶対しない”
意地を張る余裕すら取り上げてしまうこの男のことを、自分が思うよりずっと信頼しているのだと思い知った。
内側に感じる長い指は今までそこに触れたどの指よりも的確にあたしを理解し、労わり、愛でてくれる。
これ以上は無理だと思った時点で止めてくれるし、もっと、と思えば口に出さなくともそうしてくれる。
なんでわかるの…?
いったい何度その台詞を呑み込んだことだろう。
はじめて触れる相手のことをどうしてここまで理解できるのだろう。
恋人と呼んでいた男ですらこうはいかなかったのに。
あたしから無理矢理恥ずかしい言葉を引き出して、満足したように過剰な前戯で強引なクライマックスへとリードする。
セックスなんて男のためのものだと思っていたほどに、あたしは傲慢なエクスタシーしか知らなかった。
それなのに、今。
恋人でもない男に拓かれて、どこまでも自分主体の感覚に浸っている。
結城はあたしに何も求めない。
シーツが破れるほど握り締めても、彼の背中に血が滲むほど爪を立てても、何も言わずキスをくれる。
時には目蓋に、時には臍に、時には膝の裏側に。