女の隙間、男の作為
「カノー」
「なに」
「俺のワガママ聞いて?」
「毎日あんたのワガママを聞いてあげてるじゃないのよ」
今日、はじめてキスした相手なのに、もう相手の唇に歯を立てられるようになっていることに驚く隙もないくらいに全てを何かに埋められている。
「週末のカノの時間、俺に全部ちょうだい」
「は?」
「日曜の夜まで俺と居てってこと」
「無理」
「なんで」
「洗濯も掃除もさぼってたから片付けたいし」
今週も見事に残業続きで掃除もおざなりならば、洗濯も溜まっている。
週末こそ片付けなければ、あの部屋の主が女子だとは誰からも信じてもらえなくなりそうだ。
「それなら、それが終わったらまたココに戻ってきて」
言い終わるのと同時に胸の先を指の腹で潰されたのは絶対に故意だ。
思わず漏れた高い声はどう解釈してもノーには聞こえないだろう。
たぶんあたしは自分の部屋に戻った瞬間に自己嫌悪に陥ってさらなる深みに嵌る。
たぶんコイツはそれを全部見切っていて、だからこそ日曜の夜まで拘束してその隙を与えないと言っている。
ワガママに見せかけた優しさはいかにも結城圭史らしい。
「カノが見たがってた映画、ハードディスクに落としてあるし」
「近所に上手い刺身が食えるところもあるし」
延々と続けられる魅力的な餌と肉体的な刺激。
首を横に振り続けるのもあと5秒が限界だろう。
「…家まで車で送ってよ」
「カノが掃除してる間、テキトウに時間つぶしてくるから、月曜の服も忘れるなよ」
シャツは脱がされて既にソファの下に捨てられた。
結城の髪から落ちた水滴が直に肌に触れて少しだけ冷たい。
「…冗談でしょ?」
“ココから会社に行けって?”
「俺は現場に直行だし、カノはどうせフレックスだろ?」
“誰にもバレないし、カノの部屋より会社に近いよ”
拒否も承諾もしなかったのは与えられた極上の刺激の所為にした。
既に結城のキスに順応してしまっている自分の性別を改めて自覚する。
あたしはどれだけ荒んでいても女で、結城は十分すぎるほど男だ。
凹凸がぴったりハマってしまえば、退路すら絶たれてしまうのだろうか。
結局、二人とも週末の間中ずっと携帯の電源をオンにすることはなかった。