シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「せり!!! 違う、本物は今は別の場所で、あれは君の為に用意したクラウン王子じゃ「あたしの為に用意してくれたの、久遠!!!?」
目を輝かせて振り返り、久遠にその偉業に絶大な賞賛の念と今まで以上の愛情を向ければ、何故か久遠は舌打ちして、ぷいと顔を背けてしまった。
さらりと零れた久遠の前髪が、彼の表情を隠す。
「……別にせりの為に用意したものじゃない。誤解するな」
「え、でも今、久遠が…」
「せりは馬鹿の上に耳まで悪いようだな」
怒られた。
上げられた…冷ややかなその顔。
ほんのりとした赤さを感じたのは、怒り故?
珍しい。
そこまで久遠が感情を露にするなんて。
どんな感情にしろ、いつも不機嫌か怒ってばかりの久遠が、それに加えて赤く染めるなどと…勘違い女がいたら飛び上がって喜びそうだ。
「何」
お怒りなのは判るのですが、紅潮した顔で怒るなんて…まるで流行の"つんでれ"のようで…。
つんでれ…。
久遠がつんでれ…。
つん…。
――煩いな、せりはオレが好きなんだから、仕方が無くこうして手を握ってやってんだろ!!? 何が不服だよ!!?
でれ…。
――芹霞、昨夜も久遠様の"でれ"が見えたか?
ん…?
――その"でれ"は蓮にも見せないで!!
あたし…何処にトリップしてんだ?
――なんだ、まだ久遠様に"あの域"に連れて行って貰っていないのか。
"あの域"…?
――せり、何処までも一緒だっっ!!
…………………。
……………。
………。
今…何考えた、あたし!!?
鼻が…。
鼻が…!!!?
「せり、何で鼻血垂らしてるんだよ!!!? オレの言葉の何処に、いかがわしさがあるんだよ!!! 本当に君の思考回路は理解し難いな、全く…。
それから。これを持ってたのはたまたまだからな!! たまたま蓮に持たされて…」
あたしの鼻に自ら取出したハンカチを当てながら、ぶちぶちぶちぶち…小言が聞こえる。
前にあたしが、ショッピング街で久遠に買ったハンカチだったらしい。
使ってくれてるのならそう言ってくれれば、嬉しく思うのに。
「…折角貰ったのに、血で染まるなんて…」
あまりにぶちぶち言うから、聞き流してしまったあたし。
とにかく、脳裏に浮かんだ"何か"は何処かへ過ぎ去った。
原因元が過ぎ去り鼻血がすぐに止まったのは、執拗な久遠の小言のせいか、高かったハンカチの感触のおかげか。