シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
『判っていたんでしょう、玲くん』
芹霞は笑う。
『だから、"約束の地(カナン)"に来たくなかったんでしょう?』
どくん、どくん…。
『決断したのは玲くんだよ?』
どくん、どくん…。
『愛だ何だ言っておいて…結局はあたしを捨てようとしたんでしょ?』
違う。
違うんだ!!!
声が出ない。
僕の想いは言葉に出来ない。
僕は狂ったように首を横に振るだけで。
『泣いたって無駄だよ?
見苦しいだけ』
何でこうなった?
どうして僕は"約束の地(カナン)"に来た?
『だけどありがとう。
誰が大切なのか、思い出させてくれて』
僕が強引に進めた分だけ、凍り付いたその時間は。
今更、過去にも巻き戻しが出来なくて。
ああ、もし。
もしも時間が巻き戻せたのなら。
僕はこうしたBAD ENDを辿らせない。
どくん、どくん…。
未来にも進まなければ…
過去にも戻れない。
僕はこの辛い現実に囚われたまま。
身動きが取れないまま。
そこに居るのに。
すぐそこに、愛する女性がいるのに。
僕の心は伝わらない。
こんなに好きで仕方が無くて。
僕以上に君を愛する男なんていないのに。
言葉がなければ…心は伝わらないのか。
今まで僕が口にしたものも伝わらなかったというのなら。
僕はどうすればこの胸の内をさらけ出せるのか。
終わらせないで。
散らせないで。
僕はまだ…頑張れる。
目の前に漆黒の影が映った。
『玲』
櫂だった。
芹霞の横に、櫂が居た。
『俺の代わりに、芹霞を愛してくれてありがとうな』
まるで僕のこの熱い想いは、全て櫂のものであるかというように。
今までの僕の努力を、そのまま根こそぎ奪い取るかのように。
『流石は優しい玲くん。
いつもいつも…櫂を助ける"影"だものね。
あたしちゃんと受け取ったよ。
――櫂の心』