シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「……ふぅっ。何で緊張感の無い変な方向に壊れるんだよ、せりの頭は。
そこまで逃避したいのか…?」
久遠がなにやらぶつぶつ呟いて。
そして眼差しを鋭くさせた。
「話題を元に戻す。
空から降ってきた武器が、旭が放ったものでないというのなら。
つまり――
激昂していた旭は、
気配を掴めぬまま、"誰か"に後をつけられたということだ。
そしてオレ達は、旭が"幻の旭"を殺して、オレ達にこれを投げた制裁者(アリス)だと勘違いして…仕留めようとした。
旭は"幻の月"を殺した久涅と勘違いして、オレ達を仕留めようとした。
これは事実」
あたし達は頷いた。
「しかし結局これを投げた奴は見つかっていない。オレは姿を見ていない」
その時、凜ちゃんが唇を動かした。
"多分、不可視の制裁者(アリス)だ"
吃驚した。
凜ちゃん、そんなことまで知っているんだ。
凛ちゃん…東京から来たのかな。
「不可視…目に見えない、だって?」
訝しげに目を細めた久遠に、あたしも付け加えるように言う。
「居るんだよ、久遠。
目に見えないけど存在している奴が。
東京にはそんなのがいたんだよ」
久遠は腕を組んで。
「だとすれば、此の地にも、見えないだけで多く潜伏しているということか。
更には旭のような…幻術使いも居るとなれば、先手で何か策を講じないと厄介だな…。
目に見えるものだけが敵だとは限らない、か。だったら…屋敷組だオレ達だと、分散しているのは危険だな」
凜ちゃんが頷いた。
「それに凜、お前感じるか?
今…木々に囲まれたこの空間の外側。
避難している人々の数を超えた…夥(おびただ)しい数の"何か"が犇(ひし)めきあっている気配がする」
「何かって何…?」
「人外のもの」
久遠はあたしの声に即答で。
「それは蛆とか蚕とか蝶とか…?」
「それもあるが…更に気配がある」
静かに久遠が言った。
「言うなれば――
以前の"約束の地(カナン)"の再現」
再現…?
ど、何処らへんの再現?
「まあ…屋敷には蓮と司狼と…そして紫堂玲もいるから、そう簡単にやられはしないだろうが…何せ今、"約束の地(カナン)"には深刻な電気の問題が浮上している。それにかかりきりになれば…戦力が足りなくなるだろう」
そう言った久遠の目は――
「凜、旭。
戦いを覚悟しておけ」
警戒に鋭く。
「ひとまず屋敷に戻る」
それに呼応したように、
凜ちゃんも旭くんも…
厳しい顔つきをしていた。
そしてあたしは――
彼らの表情が告げる"深刻さ"を
やがて目の当たりにすることになる。