シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「お前――
馬鹿じゃないのか?」
この部屋の窓際にわざわざ椅子まで持ち込んで、我関せずとばかりに分厚い本を読んでいた久遠が、心底嫌そうに顔を歪ませた。
「馬鹿馬鹿しいこと考えてる暇あったら、もっと綺麗な食べ方を研究したらどうだ? それとも成り上がり紫堂は礼儀作法(マナー)は無頓着なのか?
口端からだらだら白い液体零して何喜んでるんだよ。そんなにたまってるのなら、外に行って適当にそこら辺の女ひっかけてこい」
誰が――喜んでいる!!!
俺をお前と同じレベルに堕落させるな!!!
何が言霊使いだ。
これだけ"言葉"を貶(おとし)めておいて、雑言を吐くだけ吐いて…後は興味を失ったかのようにしらんぷり。
言い捨て、だ。
一番俺の癪に障るタイプの男だ。
――と、言いたいのに言えない俺のストレスは溜まる一方だ。
「はあ~久遠。仮にも君は名家各務の現当主だろ。何て破廉恥な言葉で、病み…じゃないな、"死に上がり"紫堂を挑発するんだい。ちょっと見ない内に随分と口数も多くなったな」
遠坂が大きな溜息をつきながら、俺の口をハンカチで拭ってくれる。
「きゃはははは~。旭も旭も~」
「こら、旭~。君は加減を知れ~!!!
ああ…紫堂の口がたらこになる!!!」
「きゃはははは~。たらこ~たらこ~」
「ああ、擦りすぎだって!!! 血が出ちゃったじゃないか!!! ストップストップ!!!」
本当にもう、どいつもこいつも。
口がひりひりするじゃないか。
「旭。もっとやっていいぞ? 話せるようになる前に完全に話せなくなるように、もぎ取ってしまえ。二度と見れぬ顔にして、せりから引き離せ」
本から妖麗な顔を上げることもせずに、久遠は俺に喧嘩を売ってくる。
「見てくれすらも最悪な男で、そんな男に"永遠"なんて捧げる価値ないと、せりにはっきりと判らせないと」
その顔は未だ本に向けられたまま。