シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
ああ――
1発でいいから思い切り、久遠を殴りたい。
動かないのなら、言葉で言霊遣いを伸(の)したい。
やられっぱなしは、俺の"男"がすたる。
かつて芹霞を賭けた闘いは、「引き分け」のまま。
早く勝負をつけて、どちらが上かはっきりさせてやる。
そんな憎々しげな視線に気づいたのか、同様な眼差しを返してくる。
「何だよ、その目。文句があるのかよ。オレはお前の命を助けてやった恩人だぞ? この恩知らず」
そしてパタンと本を閉じて立ち上がる。
長身の久遠。
俺は上体を起こしているとはいえ…ベッドの上に横になっていて。
より高い位置から、冷ややかに落とされる紅紫色の瞳。
いつも通りの…上半身裸の上にシャツ一枚羽織るという、俺から見ればだらしなく…だけど群がる女達から見れば扇情的なスタイルで、その強い目力だけは自堕落な肉体と相反してどこまでも神聖で。
世俗に染まらぬその孤高とした神々しさは、久遠の"核"なのだろう。
だからこそ、俺の全てを久遠に賭けてみたのだけれど…。
「文句があるならとっとと"約束の地(カナン)"から出て行けよ」
ああ、俺は人選を誤ったんじゃないだろうか。
そして久遠は再び、窓際で本を読み始めた。
何なんだよ、こいつは。
忌々しい。
俺が嫌なら出て行けばいいのに、何故かこの部屋に居座って。
その存在感だけを見せつけて。
「オレの家なんだ。何処で何をしていようがオレの勝手だ」
ただの嫌がらせとしか思えない。