シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


背中に不自然な盛り上がり。

それはまるで…


ハネヲヒロゲルヨウダ。


黄色い汚濁液を身に纏いながら、艶然とした笑みを見せて外に出ようとしていて。


このまま見過ごしてはいけない気がしたんだ。


今まで、蛆が共食いをして巨大な蚕になっていたのは知っている。

そしてその蚕から"何か"が生まれただろう残骸も目撃している。


しかしそれが何なのかまでは掴めていなかった。


全ての蚕から産まれ出でるものが、全て同じとは限らない。

由香ちゃんの形をしたモノが生まれたのは、偶然なのかも知れない。


しかし常識から考えて、人型をしたものから蚕が出てきて、その蚕からまた人型が出て来るのは、ありえる事象でなく。


そしてそれがただの無害な人型ならまだいい。


あの不自然な背中の盛り上がり。


あれが悪夢の産物で、惨劇をもたらすものであるというのなら…おいそれと容易に現実に返してはいけない。


それは本能的な警告だった。



――蓮、もし屋敷に蚕が生まれていたら、剣で斬って!!!


――判った!! 紫堂玲、これはライターだ!!! 先刻借りてきた!!




僕は追いかけた。

蚕から産まれた妖しげな人型を。


見据える背中が――

ますます膨らんでいる気がして。


外は誰も居なかった。


奇妙すぎるほど何もなく。

蝶も蛆も蚕も…人間達も何もなく。


ただ闇が拡がっていた。



僕は彼女の腕を捕まえる。

それと同時期、彼女の足元が地面から浮いたような気がしたんだ。


そして視界に影がぶれる。


まるでそれは、巨大な羽根が震えて、羽ばたいているかのように。


やばい。

これは此処で消さねばならない。


もうそれは人間ではない。


奇怪な…人類の敵のように僕の目には映って。


火だ。


ライターでつけた火を見せたら、露骨に恐怖を体現して。

暴れるソレを抑えつけようと数回殴る。


由香ちゃんの形というのが忍びないけれど、

僕はライターで火をつけたんだ。
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