シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 

俺の隣では、遠坂に蓮が声を潜めて言っている。


「久遠様は…機嫌がお悪いのだ。

月に二度、この"約束の地(カナン)"の遊園地に芹霞が会いに来るのを、いつもいつもそれはそれは愉しみになされているのに…お前達、この前来なかっただろう?」


「は? この前って…だから遊園地で遊んでいるような余裕がなかったんだってば!!!」


「事情がどうであれ、久遠様は…芹霞と会うのを楽しみにされていたのだ。外の時計台の元で、日付が変わってもまだ…芹霞が来るのを待たれていた」


思わず…想像してしまった。


氷皇との約束で、必ず月二度"約束の地(カナン)"に来なければなくなった俺達。


――また懲りずにきたのか。余程暇人なんだな。いい迷惑なんだよ、早く帰れ。


此の地に着いたばかりの俺達に、いつもそんな気分が悪くなる文句ばかり言いながら、必ずこいつは外で待っている。


――オレは忙しい。お前達に構ってる暇なんてないんだ。


いつもただ遊園地をふらふら歩いて女に取り囲まれているだけのくせして。


それが"忙しい"のなら早くそうすればいいのに、だけどいつも傍に居るんだ。


芹霞の。


だから必然と、俺も久遠の傍にいることになって。


どんなに嫌でも。


言霊使いなら、言葉の通りに何処かさっさと行けばいいのに…行かないんだ。



ああ本当に――


「だから、神崎だって危険だったんだよ!!! メールに書いただろう!!?」

「久遠様には芹霞を守るお力がある。此処に逃げ込んでくれなかったのが、かなりショックだったらしい。それなりに…頼ってくれる連絡を待っていたみたいだ。

そしてようやく。来たのがこの男だけだから…一緒に付いてくるかも知れないという甘い期待を打ち砕かれて、もう……何か言いたくて言いたくて仕方が無いというように見える」


忌々し過ぎる。



< 116 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop