シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
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久遠は、僕と櫂を2人きりにさせてくれたらしい。


「痩せたね…櫂」


そう言うと、櫂は苦笑した。


痩せたけれど、目の強さは変わらない。

どんな格好をしていても、『気高き獅子』は変わらない。

王者の美貌は衰えていない。


僕の自慢の従弟には変わらない。


「似合うね、その格好。

凜ちゃん…だっけ?」


そう笑うと、櫂はむくれたような眼差しを向けた。



櫂の声は回復していなかった。


僕は回復結界を施して、櫂の声帯を癒していた。


櫂の喉仏が動いたと思った時、櫂の唇だけが動く。


"記憶はないのか?"


真っ直ぐに僕を見つめる漆黒の瞳。



言いたいことはすぐ判った。


ちらりと目の端に入る、手首の布。

櫂は反対側の手で、ぎゅっとそれを押さえつけるように握っていた。



僕はその光景から目をそらしながら、


「ああ」


とだけ答えたんだ。


同時に、ほっとする自分も居る。


まだ、芹霞は櫂のことを思い出してないんだと。


浅ましい僕。


櫂の悲痛な顔を思えば、喜べるはずないのに。


櫂は此処まで沈んで…

落ち込んだ表情を見せているというのに。


櫂の哀しみの上に、僕が望む悦びがある。


それが現実問題として、今まで以上に心に重くのしかかってきた。

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