シンデレラに玻璃の星冠をⅡ


それから長い沈黙が続いた。


本当は聞きたかった。


『芹霞と会って何を話したの?』

『芹霞は櫂だと思い出してきた?』


『芹霞の恋心は戻ってしまってる?』


聞けないよ。

聞けるはずがないよ。


きっと芹霞の記憶は戻るのだろう。


僕がかけた仮初の魔法は、

もう消えてしまうのだろう。



だけど、これだけは櫂には言いたくて。


声が震えた。



「櫂。今…芹霞と"お試し"をしている。

"お試し"は12時まで、だ」


暗黙に告げる。


これは僕だけの絶対的な権利。

お願いだから邪魔しないでくれ。


そして――。


芹霞がOKしたら、その後の関係も吝(やぶさ)かではないと。



櫂は口を開きかけたが、くっと堅く結んだ。



煩悶の顔。

深い深い翳り。


嫌だろうね。


僕が櫂だったら、許せない。


事情を判っている癖に、何ぬけがけするんだ、裏切り者だと詰りたい。


――紫堂櫂を愛してる!!


僕は、櫂に怒って貰いたかった。

詰って責めて貰いたかった。


それだけの酷いことを僕はしていたのだから。


判っているからこそ苦しくて。

苦しいからこそ、僕は明確な罰を貰いたくて。


僕は、傷つかないといけなかった。


櫂と会っても尚、芹霞を諦めきれない僕は、"お試し"を止める気がない僕は、それしか僕が傷つく方法を見つけられなかった。


自分勝手。

自己満足。


判っている。


嫌という程判っているんだ。

自分がどんなに嫌な人間か。


だからこそ。


僕を罰して貰いたかった。



櫂は唇を動かした。




"何があった? 玲…"




目の奥が熱くなってきて、

僕は静かに目を閉じた。



櫂の心は崇高すぎて。

櫂の器量は広すぎて。



痛い。

心が…痛いよ。


狭量な僕との差は、拡がるばかりだった。


< 1,161 / 1,495 >

この作品をシェア

pagetop