シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
久遠が芹霞を隣に座らせようとした。


当然というような口調。

笑顔で従う芹霞。


はだけたようなシャツを着て、3人掛けの椅子の2人分を、斜めに腰掛けてえらそうにし、長い足を自慢げに組みながら、気怠げに髪を掻き上げる久遠の…醸し出す色気だけは半端無く…凄い。


僕には真似できないあの色気。

無意識にあそこまで出るのなら、意識的になればどれくらいになるのだろう。


気怠げにすれば、自然に出て来るものなんだろうか。

服をだらしなく着れば、湧いてくるものなんだろうか。


きっと…こういう魅力を魔性と呼ぶのだろう。

うっかりしていると囚われ縛られる。


その横に、色気を放つ芹霞が座る…


そう思えば――

心が芯から冷えてくる。


先に動いたのは櫂で。


させるものかと久遠を睨み付ける。


完全に対抗心剥き出しだ。


それでも…女装の櫂と久遠でも、並べば美男美女で。

きっと櫂はそんな事実を自覚せずにいるのだと思えば、少し笑えた。


僕の横が空いた。


此処は芹霞が座る場所。


というより、自発的に座って欲しい。


疑似とはいえ、僕達は恋人同士。


そういえば、こんなこと…以前の"約束の地(カナン)"でもあったななどと考えていた僕だったけれど、芹霞が来ない。


何で?


見上げれば、芹霞は明らかに躊躇っていた。

僕の隣に座ることを。


照れじゃない。

憂えている。

困っている。



拒絶。



どうして?


だって今日、ずっと隣に居たじゃないか。

僕達、少しずつ距離を詰めたじゃないか。


"お試し"していなくたって、いつもの君なら深く考えずに、笑顔で横に座ってくるはずだ。


何を考えて躊躇しているの?

どうしていつも以上の距離感をとろうとするの?


どくん。



ねえ、もしかして――


「芹霞おいで」


櫂に見られているから、隣に座りたくないの?



それは――


意識的?

無意識的?

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