シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
そこで部屋に入ってきた由香ちゃん。
状況と僕の表情で何が起きているのか察したようで。
芹霞をずるずると引き摺ってソファに座らせた。
嫌がる芹霞を見て、僕の心は悲鳴を上げた。
どうしてそんなに拒むの?
何度も想いを伝えては、僕は拒まれ続けた。
嘘でもいい偽りでもいい…そうして縋った結果がようやく"お試し"。
執拗に迫ってようやく"お試し"レベル。
そして――
"お試し"に対する意識が最初から違うのも判っていた。
少し受入れてくれたかなって思っても、一過性で終わらせられる僕の愛。
そんな程度にしか伝わっていない僕の想い。
――紫堂櫂を愛してる!!!
僕なんか…櫂と競える舞台に立っていない。
挽回したくて強行した今日の"お試し"。
"お試し"は暇潰しの遊びじゃない。
もっともっと深い意味があるもので。
僕にだけようやく貰えた特権で。
簡単になんて終わらせない。
終わらせるものか!!!
強張った顔をした僕も当然のように隣に座る。
僕は芹霞の隣に座りたいんだ。
僕は芹霞を隣に座らせたいんだ。
だけど、芹霞はそんな僕の心に気づかない。
僕に振り向きもしない。
笑顔を見せるどころか、
タオルで顔を隠して完全防御態勢。
偶然のフリをして、肩で芹霞の肩を軽く叩いてみた。
指先で…芹霞に触れてみた。
反応がない。
僕を見てもくれない。
こんな芹霞の態度――
僕が傷つかないはずはないだろう?
僕の手が小刻みに震えている。
何度も僕は芹霞の手を引き此の場から飛び出して、僕を見ろって叫び出しそうになるのを抑えていた。
だけど、今は…不可解な"約束の地(カナン)"の状況解明が先決で。
その為に此の地に来たんじゃないか。
耐えろ。
此処は耐えるんだ。
心臓が…苦しい乱れを奏でている。
気づかれないようにしなくちゃ。
「――というわけさ。ボクも吃驚したよ、まさかボクからボクが生まれるなんてさ…」
一通り説明を終えた由香ちゃんが苦笑する。
「司狼は?」
久遠の問いに、蓮が答えた。
「眠っています。余程酷い幻覚を見せられたのか、魘(うな)されながら。心配して旭がついています」
「幻術使い…か。幻の中、オレを殺したのは由香だったのか、それ以外の奴だったかは判らないが…。厄介だな、真実を確認出来る道具がなければ、仲間にやられる。同士討ち、だ」
久遠は溜息をつきながら、天井を仰ぎ見た。