シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
「話を戻すが…紫堂玲の本格的な実験データは紫堂本家にあるな。それを見れば、何を目的とした実験をされていたのか、予測がつくはずだ」
そしてそれはきっと、紫堂の中枢にいる僕しか見ることは出来ないだろう。
あれだけ大がかりな施設とデータ管理、外部からは閲覧出来ない。
氷皇は――
実験内容を追えと言いたかったのだろうか。
「そうだ由香ちゃん、メールは確認したの?」
ふと思いついて聞いた。
「メール?」
「うん、蓮にメールでデータ送ったじゃないか。そのメールの受信データがあれば…」
「そうか、その手があった!!! 確認してないけど、多分生きているはずだ!!」
由香ちゃんの顔が輝いた。
「送ったメールがバックアップになるとはなあ!!」
「メールバックアップといえば由香ちゃん、東京のマンションに…システムチェックで送る手筈になっていた、自動送信データはチェックした?」
「……NO!!! そこまで頭回ってなかった!!!」
「あれはシステムに一気にデータが蓄積されれば、自動バックアップを取り、僕の所に流れるようになっている。その送信記録辿れば、かろうじて全部まではないにしても…ある程度は回復出来るはずで。まあ…由香ちゃんがデータを追加していたらの話…」
「してるしてる!! スキャナデータ大量追加してる!!! チビッコ達が、三重苦をかけた3倍スピードで!!!」
何だ、今スキャナしてたのか、あのチビッコ達。
「うわおッッ!!! 希望が開けてきたぞ!!! メール、メールッッ!!!」
ただ――
虚数の存在が気になって。
ネットに繋がっていなくても消えた氷皇のデータ。
メールデータも消えてないだろうか。
「しかしさ…。何で突然"約束の地(カナン)"こんなになっちゃったんだろう」
由香ちゃんがぼやいた。
「少し前までは、楽しい楽しい遊園地だったのにさ。何処から湧いて出たんだろ、蛆だろ、蚕だろ、蝶だろ、スクリーンだろ、塔だろ…」
指を折っていく。
東京のものと重なる事象。
「久涅が来てからなんだよな、こうなったの…」
それにはきっと僕達が関係がある。
「久涅は…見抜いているよ…凜」
僕は櫂にそう言った。
場に走る緊張感。
しかし櫂は、何故かほっとした顔をした。
久遠は相変わらず無反応で。
少なからず…予想はしていたらしい。
それから僕達は、互いが知り得た情報を簡単に交換した。
煌が戻って来て、桜と合流したことを言うと、櫂は嬉しそうに微笑んだ。
僕の結婚話だけは隠匿した。
これは…言えない。
知っているのは――
煌と桜だけだ。