シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
 
僕は掻い摘んでEMPを説明すると、久遠が静かに言った。


「その虚数は…紫堂玲のデータを元に生み出された可能性が高いな。0と1を自在に操り、意味も加減も出来るその特質を利用されているんだろう。

電気…電磁波…。東京で思うように電気が使えなかったというのも、案外そこに原因があるのかも知れないな。

敵についた現在の制裁者(アリス)も、お前の力の縁者ということだ。

お前が実験体になる以前から、密やかにある程度のデータはとられ…実験されていたんだろう。紫堂玲の力に有効か否か。それが有効ということは、電脳世界の弱点を晒しているのと同義。

紫堂玲を解明出来れば、電脳世界の掌握も可能になる。それは決して言い過ぎではないだろう」


「掌握~ッッッ!!!?」


由香ちゃんが椅子から転げ落ちた。


否定できなかった。


実際、電脳世界は-1という未知なる天敵の脅威にさらされている。

突然変異と言うには、あまりに不可解に突発した事象。

それがまかり通る環境にあるとすれば…変異に至る原因があったはずなんだ。


そこに欲にも似た…人為的な思惑を感じる僕は、"掌握"という言葉に特別に違和感を覚えなかった。


もしも自惚れていいのなら――

電脳世界に染まりながらも人間界に存在出来る…電脳界と人間界の境界に生きられる僕という特殊な存在こそ、どちらの世界にとっても好都合で…一番厄介なものだといえるのでないか。


0と1のみで構成する電脳世界が人間の理解を超越する不可解なものであるというのなら、0と1を解して操作できる僕の力の詳細が判れば…電脳世界の内部は人間界に晒されたようなもの。

僕を通して、人間界は…不可解な電脳世界を垣間見ることが出来る。


そう考えれば――

電脳世界に危険をもたらしたのは…僕だったのかも知れない。


気づかずにいたとはいえ…僕は電脳界に爆弾を持ち込んでしまったのかも知れない。


僕を祝福し愛をくれた電脳界を、僕は裏切っていたのか?

僕は…電脳界までも裏切る…咎人なのか?


僕は…。

僕は…!!!
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