シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
――紫堂玲、誰かと結婚するんじゃないの?
司狼が言った1つの可能性。
ウェディングドレスを着た芹霞が、脳裏にちらつく。
幾度聞いても、玲は答えない。
諦観ばかりしていた昔のような…仮面の笑みで誤魔化そうとする。
徹底的に心を隠そうとする。
――約束、して欲しいんだ。
玲は…自らの権威の復興を願ったのではなく…俺との約束の為、俺を含めた皆を守るために、次期当主になった。
玲にしか出来ない、紫堂の中枢の座位。
俺が逆転する為に、そして皆を守る為に、必要な要素だったから。
――約束、して欲しいんだ。
遠回しに告げた俺は、玲の聡さを利用した。
俺の意図する処を悟った玲は…蔑視とおべっかの巣窟である…玲にとっては鬼門の生家に、戻らざるをえなくなったんだ。
そこで馬鹿親父に結婚話を出されたのか。
どこまでも道具に…使われているのか。
玲が口を開かねば真相は判らないけれど、
――紫堂櫂を愛してる!!!
あの場でそれを聞いていた親父なら。
実の息子の救いを求める手を払った親父なら。
いつでも簡単に玲を追い詰める。
甥という血の繋がりは意味が無い。
俺が"約束の地(カナン)"に居る間、玲は耐えに耐えてきたのだろう。
蔑視とゴマすりと――
ああ、玲を紫堂の実験体にするなんて!!!
何処まで玲を蔑ろにしたら気がすむんだ!!!
紫堂の体質は昔と変わらない。
俺が居なくなればすぐ戻る。
誰1人、本当の玲を見ようともせず、好き勝手に噂する。
玲の優れた本質に見向きもせず、俺に負けて次期当主を剥奪された…"敗者"だということだけで、当然とした顔で攻撃する。
強いものだけが正義。
それが紫堂の実態。
玲が何も言わないことをいい事に、
人前だろうと堂々と罵倒し、
悪評を扇動する馬鹿もいる。
その筆頭が親父だ。
その中に玲は1人、また放り込まれた。
悪意だらけの巣窟の中、玲は…。