シンデレラに玻璃の星冠をⅡ

・選択 桜Side

 桜Side
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其処には――

居るはずの無い…

予想すらしていなかった女性が居た。


曖昧たる闇を切り裂く、鮮烈な緋色。

艶やかに咲き誇る大輪の華。


片方の指に、狂乱した炎の神鳥を鎮静させて…

その顔には余裕の笑みすら浮かべる…

五皇最強の…紅皇。



「緋狭様!!?」

「緋狭姉!!!?」


襦袢の裾をはだけさせ、周涅の咽喉元に刃物をつきつけている緋狭様。


それはどう見ても…敵対の図。


私達に仇なす男に刃を向けている。


私達は…緋狭様のおかげで命繋がった。


ああ、緋狭様はやはり緋狭様だ!!!


一瞬で周涅を制する力を持つ…

慈愛深い緋狭様の根底は何も変わらない。


数日前、緋狭様は敵に回り…

私達に炎の神鳥を放ち――

そして自らの手で櫂様の胸を貫かれた。


しかしその実、

愛弟子の命を奪ったことを憂いて、

傷ついた私を治療してくれた。


煌を取り戻す…薬まで与えてくれた。


次回顔を合わす時は、敵かもしれないと…

そう言っていながら、緋狭様は私達の味方で居てくれた。


思わず視界が滲んだのを、悟られまいと手で擦る。

その横では…


「緋狭姉~!!!!」


感情ありきの馬鹿蜜柑。


涙で濡れた顔を惜しげなく披露している。


強面で野性的な顔をして…

もう本当にみっともないけれど…その心情は判るから。


此処は何も突っ込まないでおこう。


そして追うように鼻を啜る音。


犬の泣き声につられて猿が泣いている様だ。

動物達の哀愁漂う鳴き声が、何故か笑えてしまう。
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