シンデレラに玻璃の星冠をⅡ
俺は…黄幡会の塔を思い出す。
漆黒色に走る真紅。
通称、"輝くトラペゾヘドロン"。
トラペゾヘドロンの意味は"偏四角多面体"、歪な形状のことを指し…頑強で瘴気溢れる素材そのものをそう呼んでいるわけではない。
"約束の地(カナン)"における建造物と、同じ素材で作られた黄幡会の塔。
あんな奇々怪々とした悍(おぞま)しい素材を好んで使う者もいなければ、あんな素材を手に入れられる者もいないだろうし、手に入れたいと思う者もまずいまい。
あれは…闇を増幅させるだけの特殊素材だ。
何よりあの素材は元老院絡みで、前回緋狭さんが氷皇の命令により、その行方を追い、"約束の地(カナン)"に来ていた。
元老院と五皇の管理下にあるものが、一般人の手に渡るということは…絶対に考えられにくい。
第一、持ち運びは困難だろう。
運搬の件は仮にクリア出来るとして、あれを欲しがる人間がいるとすれば…それは意図的に、"そういうこと"を目論んでいるということだ。
"そういうこと"…それは摂理に反すること。
人の道に反すること。
あの素材を黄幡会が使用していたことに気づかぬはずない五皇が、黄幡会の重役と交わっているのは納得いかない。
知らぬはずはない。
ここ数日の付き合いでもなさそうであるのなら。
だとすれば、それもまた必然。
2ヶ月前の"血色の薔薇の痣(ブラッディローズ)"は、"約束の地(カナン)"の布石だった。
しかしその"約束の地(カナン)"自体、"何か"の布石だったら?
それを…久遠は思っているのか。
そして。
布石は、崩され壊されるのが運命なのだとしたら。
布石たる"約束の地(カナン)"は――?